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埼玉大会 野地潤家 広島大学名誉教授のご講演から
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講演3   源泉としての大村国語教室
         広島大学名誉教授 野地 潤家

 
私が大村はま先生に直接ご指導をいただけるようになったきっかけは、広島の高等師範学校の国語科の卒業生が東京で教師になり、目黒八中での大村先生のお仕事を知らせてくれたことだった。私はすぐに上京して先生の授業を参観した。
 その後、広島大学の教育学部からのペスタロッチ賞をお受けになった後、広島で国語研究会開催の企画が持ち上がり、ぜひ大村先生をお呼びしたいということになった。大村先生は「ふだんはチョークの粉にまみれて授業をしている身です」と、現場実践者としてこの研究会に来たということをお述べになった。じっくりと日頃携わっている中学校の実践研究について流暢によどみなく進められ、集まっていた人たちは深い感動に包まれた。それから毎年十二月初旬の土日を使って実践研究会が開かれ、ご講演をいただくようになった。また、私が実践発表者に助言指導すると、その助言の未熟なところ、つたないところを的確に指導され、大学院で専門の授業科目の研究についてのご指導をいただいているような思いがした。四十年近くの中で、今日の助言はよかったですよと言っていただけたのは一回だけだった。
 先生が還暦近くになられた頃には、記念にという気持ちを込めて諏訪高等女学校、都立第八高女、深川一中をはじめとする新制中学校の卒業生の人達、大村先生の指導を受けた人達に当り、文章を募った。文集「大村先生に学びて」(のち渓水社)として、当時の大村先生の授業、それによって鍛えられたこと、思い出に深く残っていることを皆さん書いてくださった。
 昭和二十年代の終わり頃、母校の広島大学に帰っていました私に、人手が足りないので中学校の方を助けて欲しいと指導依頼が来たので出向いた。大村先生にそのことをご報告すると、途端に先生の表情が険しくなり、すぐにお辞めになったらどうですかとおっしゃった。長くご指導をいただいてきた年月の中で、あれだけ厳しい言葉をいただいたのは後にも先にもその時だけだった。自分の本職は教育学部に別にあるのに、頼まれたからといって中学校に授業に来るという心構えがしっかりしていないのではないかと厳しく諭されたのだと思う。目黒八中、紅葉川中、文海中、石川台中に臨んでおられた心持ちそのものをおっしゃっていたと思う。


(1) 大村先生の実践は「大村はま国語教室」全十五巻・別巻一にまとめられている。生涯をかけて中学校の国語教育の実践指導に当たられ、ほとんど大事なことを網羅してできましたものがこの全集七千四百ページ。明けても暮れても一所懸命、授業に打ち込んで、そういうことが行われた。
(2)「大村はま自叙伝 学びひたりて」(共文社)「私が歩いた道」(筑摩書房)を読むと、大村はま先生が学ぶということをどういうふうになさったのかということを辿っていくことができる。一瞬の油断もなく、克明に、気乗りしない、仕方なくではなく、どういう場合も積極的に学ぶ姿勢を保持して進んでいかれている。教えるということの前に学ぶということがあったのだということを改めて思わずにはいられない。
(3) 大空社から出ました「大村はまアルバム」に、にも選りすぐりのことばが集められている。
(4) 『教えるということ』(共文社)は、目次を見るだけでも、「教師の資格」、「研究することは先生の資格」、「私は研究から離れませんでした」と重要なことがはっきりと見られる。「二十代のアイデアを大切に」、教職生活の二十代で得たアイデアは大切にしないといけない。後々まで生かしていけるアイデアが、次から次へと生まれてくるときですので、それを大事にしたい。
(5)教え子の苅谷夏子さんの『優劣のかなたに』は60のことばが八章に分けて取り出し、それについての解説が加えられている。『評伝』では、大村先生が「生涯一人の教師」として過ごされたことを、きめ細かに膨大な資料の中から選んで述べている。

大村先生は日本の国語教育を到達水準を踏まえたうえで、それを伸ばしていくように切り開いてくださった。その大村先生をどのようにして乗り越えていくか、一から十まで大村先生が取り組んでこられたことに心を寄せて、大村先生がよく頑張ったわねと言ってくださるような、さらに本格的なものをめざして取り組みをすることが、この研究会が果たす役割の一つではないかと思います。新しい国語教育の源泉として大村先生の実践が、いつまでも私たちを導き続けてくださるのではないかと思います。

大村はま記念国語教育の会への
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年会費は4000円(入会金不要)。 年一回の研究大会を開催。そのほか小さな研究会も随時各地で開催しています。会報「はまかぜ」を年3回発行。研究会の記録、お知らせ、会員による大村研究、実践記録、大村はまや国語教育などにまつわるエッセイなどを掲載。
関心をお持ちの方は下記の本会事務局までご連絡を。

大村はま記念国語教育の会事務局
 hokokugo@gmail.com       

by ohmurakokugo | 2011-01-21 21:00

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