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埼玉大会 実践研究発表 その1
ひきつづき、埼玉大会の報告です。
大村はまは、生涯を通じて、「実践」を大事にしていました。子どもを実際に育てるのは、理念や理想や理論ではなく、それらが実践という形であらわれたときに初めて力になるのだと考えていました。教員同士の研鑽も、理屈の言い合いでなく、あくまで、実践を重視しました。
ということは、埼玉大会の中心も、この実践研究発表であるべきです。じっくりお伝えしたいと思います。今回はその1です。

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児童が生き生きと活動する国語の学習
        ~書く力を高める学習指導の工夫~
                埼玉県加須市立三俣小学校 江 利 川 哲 也
 
 三俣小学校の学区には「浮野(うきや)の里」という場所があります。その特殊な地形やそこにある珍しい植物、昔ながらの田園風景、生活の様子を県の天然記念物、緑のトラスト保全地にも指定されているところです。浮野の里はその名の通り、浮いている土地です。かつてキャサリン台風で洪水があったときに、その一帯が水に浸ってしまったのですが、浮野という地形の場所だけ、島のようになって浮いていた。そこから浮野という地名がつきました。本実践では地域の宝である浮野の里の魅力を、他の地域の人々に伝えるという学習を通して、文章の書き方や書く事柄の収集・整理の方法をしっかりと身に付けさせ、児童の書く意欲を高める学習指導の工夫に取り組んでいくことを目指しました。主な力として「情報の収集」「情報の整理」「収集した情報を自分の言葉で書く」という力、それから自分たちの地域にはこんなに素晴らしいところがあるのだということを子供達が誇りに思うという力を身につけさせたいと思い、実践を進めました。
 児童が単元の最後まで意欲を持続し、学習に取り組むことができるように、単元=教材との出会いを工夫しました。この大会の準備会で苅谷さんとお会いする機会があり、浮野の里を紹介する実践に取り組みたいというお話をしますと、浮野の里についてもっと知りたいと「6年1組のみなさんへ」という手紙(下記)を送ってくださいました。子供達に実際に手渡すと、この手紙を児童は集中して読みました。活字で打たれたA4一枚びっしりですので、普段ならこの文面を見ただけで読む意欲を失ってしまうことが多いのですが、今回は、普段は読めない漢字を質問しに来ないような児童も、わざわざ聞きに来て、全員が長い手紙を最後まで読みきりました。この手紙をきっかけに今後の授業に対する具体的な目標ができて、高い意欲を持続して学習を進めることができました。また手紙を詳しく読み取ることで、苅谷さんの知りたいことが分かり、調べる課題を明確に持つことができました。
 学習としては、地形、植物、動物、地蔵、産物などテーマ毎にグループにわかれ、多くのテーマをカバーできるように、あらかじめ豊富な幅広い資料をそろえておいて、それぞれ調べ学習をしました。あるグループは地元を良く知り、浮野の里の保全活動をしている方にインタビューをしました。学習が進む過程で隣のクラスの担任からも新たな資料の提供があり、児童が実際現地に行ったりして新たな資料や新聞記事を付け加えたりして、さらに資料が充実しました。
最後に、ガイドブックという形でクラスで一冊にまとめました。実際に苅谷さんに三俣小に来ていただいて、ガイドブックを渡すことができました。今までにない学習をしたという満足感と、また自分達で作ったガイドブックへの自信、どんな感想が帰ってくるだろうか、という期待が感じられました。三日後の感想の手紙が届いたときのそれに対する児童の反応もいきいきとしたものでした。
 時間の制約、また紙面の制約が大きく、せっかく調べたことを十分に形にできなかったことが問題と思っています。


 「六年一組のみなさんへの手紙」 
 終わらないかと思ったあの厳しい夏も、なんとか去ったようですね。今年の秋は、とりわけうれしい気がします。みなさんも、きっと涼しい空気を深呼吸して、張り切っていることでしょう。
 夏の終わりに、わたしはあるところでみなさんの先生、江利川哲也さんにお会いしました。初対面でした。「暑くて、参ります」なんていう会話をしても、なかなか固い雰囲気は破れず、江利川さんの顔にも緊張が浮かんだままでした。ぎこちなさが、わたしたちの間にしばらく漂いました。
 ところが、です。みなさんの地元の「浮野の里」のことが話題に上ったとたん、江利川さんの口調が、明らかに変わりました。「浮野の里」のことを全く知らなかったわたしに、なんとか少しでもうまく、魅力的に、手際よく、この特別な土地のことを知らせようと、江利川さんは、むきになったのだと思います。ことばは、いかにももどかしげに、熱心に、自信をもって発せられました。江利川さんの顔つきまでが、変わったかのようでした。急に空気がいきいきと変わり、数人の聞き手が前のめりになりました。
 地形の特殊性、地名のこと、「乗っかって、ジャンプすると、浮いた感じがわかる」ということ、温度の低さ、生息する動植物のこと、この土地の価値に気づき、保存に私財を投じたという橋本さんのこと。たくさんのお地蔵さんのこと……。
 わたしは、もっともっと聞きたいと思いました。浮野の里という地名そのものが、物語を持っているように感じました。浮野に行って、自分でジャンプしてみたいものだと思いました。それは、どんな感触でしょう。地面に指を差し込んで、温度を探ってみたいと思いました。他の地面と違いを感じるんでしょうか。橋本さんという方にも心を引かれます。直接お話をうかがったら、さぞ興味深いお話が聞かれることでしょう。橋本さんのお人柄そのものを知りたい気持ちになりました。
お地蔵さんのことも驚きました。わたしは千葉県習志野市に住んでいますが、四十年くらい前までニンジン畑が広がっていたわたしの地元では、めったにお地蔵さんは見かけません。よく考えてみても、家を中心にして半径1キロの範囲にお地蔵さんはいません。半径2キロでやっと、あっちに一体、こっちに一体、と思い出す程度です。たくさんのお地蔵さんがまつられている地域には、みなさんの先祖のどんな思いが残っているのでしょう。
 江利川さんは、二学期にこの「浮野の里」について、三俣小学校六年一組のみなさんと学習する予定なのだとおっしゃっていました。みなさんが調べたこと、わかったこと、感じたことをまとめたら、どうか読ませてください。心から期待しています。必ず一生けんめいに読んで、感想を書きますから。私の知り合いの横浜の六年生たちにも、読ませてあげてください。どれほど興味深く読むことでしょう。
 なにかを自慢するということは、あまりよくないことのように言われがちですが、地元の大事なものの自慢は、すばらしいことです。手加減する必要はありません。うんと調べて、うんと自慢してください。待っています。
 小学校最後の秋が、忘れられない秋になりますように。お元気で。
                                             苅谷 夏子
 
   三俣小学校六年一組のみなさん



 「手紙」について                  苅谷夏子 
 この手紙を書くきっかけになったのは、埼玉大会の準備会で出会った江利川先生の困惑を見たことでした。三俣小では毎年、6年制が総合的学習で「浮野の里」の研究をしている。地域の宝であることは確かだが、それが子どもの本当の興味に発したものになっていない。何か、突破口が欲しい・・・
 それで、おせっかいな手紙を書きました。私は大村教室で、また晩年の大村先生の手伝いをする過程で、「てびき」が生まれる場面、「てびき」が受け取られる場面というのを、たくさん目撃しています。それは、決してピリピリとした神経質なものでなく、人が人に手渡す、ごく自然な、体温のある、誘いのことばだったと思っています。それを真似てみようと思ったのが、これです。これは、手紙ですが、てびきでもあります。
 手紙に書かれている私の興味、好奇心は、演技ではないという点は強調したいと思います。この手紙は、空々しいお芝居ではない。本気で書いています。私の本気が、子どもたちを点火することを、願いながら書きました。それは、私のよく知っている大村先生の姿勢であると感じます。
 実際に、子どもたちに火がついたようで、それは嬉しいことでした。クラスを訪れて「ガイドブック」を手渡されたときにも、彼らの期待と自負と、関心を共有する者同士の親しさを感じました。「ガイドブック」への細かい感想を送りましたが、それが届くことを心待ちにしてくれたそうです。さもありなんと思います。
 けれども、課題はたくさんあると思います。せっかく地元自慢をしているのに、やはりネットから得た情報がどうしても多くなりがちなこと。実際に自分の目で確かめたことを書きたい、という姿勢が確立されていないこと、等。それでも、勉強を火がついた状態ですることを味わった子どもたちは、進んでいくのではないでしょうか。期待したいと思います。


 次回は、この発表に対してのフロアからの発言と、桑原隆・早稲田大学教授の指導を掲載します。
  
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by ohmurakokugo | 2010-12-11 11:08
  

大村はま記念国語教育の会のネット版会報。国語教師・大村はまについて、知り、考え、試し、自分の力にしたいと集まった会。ご入会を歓迎します。お問い合わせは hokokugo@gmail.com まで。
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