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埼玉大会 元生徒の証言1
中学で大村はまに育てられた三人の教え子が、それぞれに大村教室を振り返った。羽島さんは目黒八中の生徒で、新聞収集研究家。内海(小西)まゆみさんは石川台中学校の生徒で、現在、国語教師。苅谷(前田)夏子も石川台中学校の生徒で、本会事務局長である。司会は本会理事で埼玉大会実行委員会の、中山厚子。

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中山 この〈証言>では、大村はま先生の元生徒の方々に、大村教室について語っていただいています。大村先生は「学習はもちろん面白くなければいけない。面白くなければ何も考えないし、何も覚えない。しかし面白ければいいのではない。何を面白がると思うべきか。面白がるようにそれを使用しなければならない」とおっしゃっていました。教室に魅力をということですが、魅力あるものにするために、私たち実践人は様々な知恵をめぐらせ工夫しており、そこに苦労があるわけです。ではその大村先生の教室でどのようなことを学ばれたか、お話を聞きたいと思います。

羽島 人生には不思議な出会いがあるものだと、実際に七十五歳になった今でも、大村教室に入った幸運を実感しています。もともと新聞が好きだった私は、まず大村先生と相談してガリ版刷りの学校新聞、『八中読売』を創刊しました。その翌年に単元学習で新聞がテーマになりました。新聞記事の書き方や、紙面の割り付けなど様々なことを学びました。私は新聞の資料を調べることになって、全国各地で発行されている新聞の題字を集め、大きな日本地図に貼って発表しました。これが好機となって私の新聞収集がスタートしています。
 大村先生は私のことを後に教室でも生徒に話しておられます。「私は羽島さんの仕事を思うとき、集めておく、記録しておく、保存しておくということの値うちを考えるのです。羽島さんはたしかに、自分で言っていたとおり、いわゆる成績優秀な生徒ではありませんでした。ただ、誠実な人でした。その誠実な、着実な気持ちで、着々と新聞を集めました。それを、羽島さんに言わせると、頭のいい人が使って、そしてそこから、この世の中に役立てることができるようになったわけで、『ほかの人の頭を借りていい仕事をした』と笑っていましたが、たいへん考えさせられる、いいお話だと思いました。」と結んでおられます。念願の日本新聞博物館がオープンし、五十年をかけて集めた私の新聞コレクション十万点あまりが、この博物館の基本資料として嫁入りしたわけですけれども、「よかったわね、おめでとう」と誰よりも喜んでくださったのも大村先生でした。中学時代から半世紀経っても、教え子のことを思いやる大村先生は、本当に私は実の母以上の愛情を感じておりました。この日本新聞博物館もちょうど先月十周年を迎え、入館者は五十七万四千人を記録しました。
 七十五歳になった今も大村先生との出会いのおかげで、日々希望を持ってライフワークの新聞収集と研究に没頭している人生が送れることを心から幸せをかみしめています。そして大村先生と二人三脚で日の目を見た日本新聞博物館の未来に向けて、多くの来館者に感動を与え続けると確信しています。もし機会があれば、ご来館ください。

内海 私は「わくわく授業」をキーワードとして三つの授業についてお話しさせていただきたいと思います。
 石川台中学校の体育館で、今のように多くの先生方を目の前に、「平家物語」の冒頭を暗誦した日のことがまるで昨日のことのように思い出されます。「古事記」「源氏物語」「枕草子」「土佐日記」「徒然草」、夏目漱石、森鴎外、川端康成、宮沢賢治などの作品の冒頭部分を繰り返し、繰り返し楽しみながら音読をし、気がついてみたら覚えていたという状況でした。言葉の響きの美しさ、名作の持つリズムの美しさ、名作に親しむ楽しさを教えてくださいました。
 二つ目は「作家になる喜びで胸躍らせた」ということについてです。これは「五つの夜」という単元でした。夜になると私は小西まゆみではなくて別の人物になるんです。人物を考えるにあたって、どのようなアドバイスや注意点があったかは、そのときの手引きが手元にないので分からないのですが、とにかく別の人物になるというだけで、皆さんもわくわくなさいませんか。私は、母の友達になるということを最終的に一つ選択しました。そして毎晩のように母にインタビューをしました。小さいときはどうだったかとか、お友達は、疎開したときはということを事細かに聞きまして、最終的に私の「五つの夜」は母の友達になるということで作品が完成したかと思います。
 先生は私達に偉大なる作家の仲間入りをするというような喜びを与えてくださいました。その裏で情報収集、魅力的な書き出し、書き出しと結びの関連性、そういうものについても教えてくださいました。今思いますと五つという数字も、これ以上でもなく、これ以下でもないという絶妙な数字で、ちょっと背伸びをすれば届く目標を常に私達に与えてくださっていたのだなと思います。
 三つ目のわくわくは「読み」についてです。本の中に没頭するような授業を本当にたくさんしていただきました。その中でも「明治・大正・昭和 作文の歩み」という授業が私は忘れられません。明治、大正、昭和の同年代の少年少女たちが本の中で生きていました。二十年から百年という時を超えてタイムスリップしたかのような錯覚というものは少年少女たちのそのときの目や耳、そして心で感じたことが綴られた作文の力ゆえだと思います。それらの作品をどんな観点から分析していくか、つまり今で言うところの課題設定能力、それから分析能力を先生の三年間のプランの中で徐々に育てていただいたわけです。
 いかがでしたでしょうか。三十年以上経っても、今の私の心に生きる大村先生のわくわく授業のほんの一部でしたがお話しできました。

苅谷 6年前に『評伝大村はま』の企画がもちあがり、2年くらい前から書き始め、今年8月に無事に出すことができました。
 評伝を書くという仕事自体が、国語単元学習の一つの典型だったという気持ちが、今、しています。振り返れば、評伝を書く仕事の様々な局面で、大村教室で学んだ仕事の仕方の手ほどきが実に生きた気がします。中学の教室で本当に多岐にわたるいろいろなことを体験しましたけれども、そこで身につけたスキル、勉強法、心得、様々な工夫や力が、大人になった今、ちゃんと役に立っている。あれらはちっとも子供だましでなかった。もちろん、中学生に合う規模と材料で学んだわけで、それがそのまま、というのではなく、そこで植え付けられた基礎や姿勢やエネルギーが、私と共に順調に育って、大人の仕事を支えるものになったということ。これは振り返ってみるとしみじみありがたいという気がします。
 今回はエクセルに約500項目の事実や資料を打ち込んでいき、順番を時系列に沿って並べ変えたものが、基礎資料でした。こういう仕事の仕方は、粗末なわら半紙に作文の材料を書いて、机の上に並べ替えて構成を工夫した、中学生の頃の大村教室があります。500という数にたじろがないで、いい加減なことをしないで焦らずにやっていけばいつかできる、と自分に言い聞かせ、手に余らない分量の仕事を確実に重ねていくという感覚は、大村はま譲りです。
 でも、整然と材料が五百項目も並んでみて初めて気づいたのは、材料はあくまで、材料でしかないということでした。なにか触媒のようなものがそこに作用しないと、材料は有機的には結びつかない。そこに必要なものは二つあったと思います。一つは何とか有機的な世界をここから作ろうという創造の意欲とエネルギーです。そしてもう一つは、「意志的な私」であることを支える自信でした。「自信」という、一番やっかいなものを、私は先生から最後にいただいていたのだと思います。
 創造のエネルギーを持つこと、表現者としての自信を持つこと、これは実は大村学級でずっと大村先生が私達に与えようとしていたのだと思います。『評伝』を書く仕事は私にとっては難しい仕事でしたが、その元になるものが中学の教室でちゃんと手渡されていたと感じています。

小林圀雄 みなさん話し方も大変お上手ですね。大村はま先生から話し方について、指導をお受けになったと思いますけれども、最も印象に残っていることを言ってください。
内海 班の中で話し合い。そしてクラスでの話し合いや発表、もっと大きいチャンスも与えられまして、場数を踏んだ中で次第についてきた力、つけていただいた力というように思います。
羽島 グループ活動でものを調べて発表する。みんなが発表するわけで、自分だけ黙っているわけにはいかないので、そういうところで訓練をさせていただいた。朗読や放送劇などいろいろな話す機会を与えてくださったことが、私が今日お話ができるようになった源のではないかと思っています。
苅谷 話し手としての大村先生の力が際立っていました。身近に優れた話し手がいて、私たちには憧れだったし、かっこよかった。知的で、暖かいのにとてもシャープでした。憧れが私達を引き上げたという気がします。

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大村はま記念国語教育の会事務局
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by ohmurakokugo | 2010-11-28 20:31

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